大手塾がふれない中学受験の鍵 [どう、子どもと向きあおうか]
夏休みトイレ籠城事件
何をやっても、うまくいかない日があるものです。
「ひと休みしよう」と私が言うと、「まだ、終わってない」と、花蓮。「でも、もう時間だよ」と言うと、「これ、最後までやる」。「充分、よくやったよ」と褒めてみても、「あ、そう」と、そっけない。今度は「チョコ食べて、すこし休んで、別のものやろう」と誘ってみるけど、「いらない」と一言。
なだめても、褒めても、ちょっと冷たく言ってみても、どうやってもダメ。花蓮は夏期講習のテキストとノートを広げ、計算問題3題をずっと、にらんだまま。朝からすでに2時間が経過…………。去年のお盆、日能研が休講の日のことでした。
*~*~* 折り返し地点から、夏休みの前半と後半をふりかえってみると *~*~*
国語はステップアップノート、算数は、自分の課題として「考えよう」に取り組み、どちらも、夏期講習の授業内容にそって、マイペースで進んでいました。
花蓮の場合、問題はメモチェでした。理科は8月9日に30までが宿題で、先生がチェック。知識分野を一気にやったあとは、力学や電気という苦手単元が続き、あまり進まず、お盆休みに必死でやりました。理科の1回めは、後期の最初の授業で提出しなくてはならず、終わったのが前日。9月2日でした。
社会は夏休み中に確か、51くらいまでを終えることが宿題でした。グレーの部分だけでなく、全部やるというマヌケな方法でやってましたが、なんとか51までをクリアしました。
メモチェに関しては、何回もやる必要はないという意見や、1回めが終わったときにどれだけ覚えているかが大切だという考えもあると思います。ただ、中学受験では、理科も社会も非常に広範囲な知識を要求されるので、苦手な教科は全範囲に目を通すという意味でも、早めに進めたほうがいいと思います。花蓮の場合、苦手教科の理科を夏休み中に1回、終えておいたのはよかったと思っています。
花蓮の進行状況はこんな具合でしたが、早いお子さんはほんとうに早い。でも、あまり惑わされずに、入試までの毎日、インプット、アウトプットの時間をもつことが大切なのだと思います。最終的には、理科は3回、社会は2回、終えました。
★また夏休みに、志望校の過去問を見て、算数と理科と社会のよくでる分野を私はチェックしました。そして授業をうけたりメモチェを進めるときに、どの単元が重要かを、花蓮に伝えました。後期になると慌ただしいので、今、時間に余裕があれば、過去問のチェックをお勧めします。
*~*~*~*
・・・・・ 午前中、半日かけて、計算問題だけ!? こんなのさっさと切りあげてほしいのに。理科も社会もメモチェ、やらなきゃいけないのに。前半が終わって、計画通りに進まなかった遅れを取り戻さなきゃいけないのに。学校の宿題だって、できるだけ片づけとかないと大変なのに。もう、いったい、ぜんたい、どーすんのよぉお!!!!! ・・・・・
まるで私の心の声が聞こえたかのように、突如、花蓮は席を立ちました。
トイレに行って、帰ってこない。5分、10分、15分…………。最初は、ドアの前で穏やかに、「出てきてほしい。勉強しよう」と呼びかけました。ところが、花蓮は「いやだ」を連発。あとは何を言っても無視。ドアには、開かないよう鍵がかかってる。再び、あらゆる言葉が通用しない状態に、イライラが最高潮に達した私は、ついに、ドンドンドン! 大声で叫びました。
「花蓮、出てきてちょうだい。やんなきゃいけないこと、いっぱいある。こんなことしてる時間なんてない。今、大事なときなんだから、出てきて、今日やるって決めたことをやろう。勉強するかしないか、こんなふうに、つな引きしてる時間なんて、もうほんとにないんだってば! 出てきてちょうだい、花蓮!! 早く!!! 今すぐ、出てきて!!!!! 」
重苦しい沈黙。開かない扉。静まりかえった家に、突然、大きな泣き声が響きました。
「花蓮は、何と何と何を、がまんすればいいのぉーーーーー」
まいりました。降参です。ああ、花蓮はもう、いっぱい、いっぱいなんだなぁと思いました。
六年の夏期講習はハードで、ほんとうにきつかった。前半、花蓮なりに、充分、よくやった。それなのに、まだ足りない、もっとやろうと、私は引っぱってる…………。そんなことを考えながら、私は、ひとりのお母さんのことを思い浮かべていました。
その弁当に、母の覚悟を見た
花蓮が通っていた日能研の校舎では、六年生はお弁当持参でした。食事を兼ねた15分の休憩時間。ノートをとるのに時間がかかったり、授業が延長すると、全部、食べられないこともありました。そんなときは、帰りの車や自宅に着いてから食べたものでした。あるとき、家で、お弁当の残りを食べながら、花蓮が「二大悲惨弁当」の話を始めたのです。
休憩時間に「お弁当が届いているよ」と教務の方に知らせてもらった男の子が、バンダナにくるんだ四角い包みを手に、嬉しそうに教室に戻ってきました。「お母さんが作ってくれたお弁当だよ」と、大喜びで開けると、中から出てきたのは、食パン1斤。花蓮も、周りの子たちも、その子自身も驚いたそうです。
「サンドイッチとかじゃなくて、ほんとうに食パン、1斤だったの?」
と、たずねると、花蓮は、
「そうだよ。ビニールの袋に入った、ふつうの食パンだよ。ジャムも何にもなかったのは、気の毒だったな。でもお腹すいてるから、食べたよ。友だちとおしゃべりしながら」
私が驚いていると、花蓮が話を続けました。
「『二大悲惨弁当』のひとつは食パンで、もうひとつはね────別の日に、またその子にお弁当が届いたんだよ。取りにいったら、今度は紙袋だった。その子はおにぎりだと思ったらしいんだ。でね、紙袋を開けたらね、中からキャベツが出てきた。1個、丸まま。赤道みたいに、真ん中に細い紫色のテープが貼ってあって、売ってるときのまんま、届いたんだよ。びっくりしたなー」
「その子、どうしたの?」
「塾のウォータークーラーで洗ってきて、1枚ずつ、はがして食べてた。残さず全部、食べた」
すごいなぁ。負けたと思いました。
お母さんが普通に作ったお弁当のときもあったというので、お金の問題ではないと思います。また、真意はわかりません。そんなお弁当、花蓮に届けたいとも思いません。でも、「今日は、キャベツ」と決断した潔さ、強さ。そして実行してしまうパワーに圧倒されました。食パン1斤、キャベツ1個。ただそれだけであったところに、有無を言わせぬもの、並々ならぬものを感じてしまいました。良い、悪いは別にして、子供に対するスタンス────母親として立っている位置のゆるがなさに、負けたと思いました。
そして、手作りのお弁当や、マックなどを、友だちが食べているなかで、食パンはまだしも、キャベツを1枚ずつはがしてムシャムシャ全部食べた、その子もすごいと思いました。花蓮によると、その男の子は、とんとんとMクラスにあがっていったそうです。
中学受験における3つの難しさ
中学受験を体験して、次の3つの点で難しいと、私は感じました。
1つめは、花蓮が何をがまんすればいいのかとたずねたように、中学受験の主役が、成長過程にある、幼さをもった10歳前後の子供であること。
赤ちゃんのとき、同じ1歳で走ってる子もいれば、ようやく歩き始めた子もいたし、まだ歩けない子もいましたよね。言葉がでるかどうかも、子供によって違っていた。花蓮のいとこは言葉が遅くて心配していたのですが、2歳ごろ話しだしたときには、幼児言葉は使わず、大人が話すような言葉でしゃべりました。子供の体と心の成長はさまざま。早く育つ子、ゆっくり育つ子がいる。でも、中学受験をする子たちはみんな、小学六年生の2月に結果をださなくてはならない。成長の度合いと関係なく、結果を求められるということです。
2つめは、親が初めて中学受験に臨むケースが多いということ。何人かお子さんがいらっしゃる方は慣れたものかもしれませんが、うちはひとりっ子だし、親も子も、初めて中学受験を体験しました。だから、わからないことが多かった。そこで、塾にたずねましたが、わが子の場合、どうすればいいのか、ピンとくる答えは得られなかった。
花蓮が四年生のとき、塾の先生にたずねた私の愚問の最たるものが、「夏休みに夏期講習だけでなく、カリテも模試も全部ふりかえりました。この成果はいつ、現れるでしょうか」というものです。先生の答えは、「お子さんによりますね。早ければ1カ月半。まぁ3カ月くらいはかかるでしょうか」というものでした。
そう、子供によるのです。早く成長する子は、本気。本気であれば、ひとりでどんどん先へ走っていく。でも、そうでない場合は────。
花蓮が六年生のときに話した塾の先生の言葉を思いだします。あまりにレベルアップした算数をどうすればいいかを相談。ピンとこない答えばかりだったので、何度も繰り返しおたずねしていると、最後に、「こういう言葉を使ってよいものかということはありますが、お子さまの監理ということをもうすこしお考えになっていただくことも大切かと…………」と、おっしゃいました。ゆっくり成長する幼い子は、なかなか本気にならない。だから、監理が必要である。しかし、どのように監理するか、どこまで監理するか。これは子育てに関わってくる問題、親の考え方の問題です。当然、塾はそこには踏みこんできません。多くの子供と親にとって、ここがキーポイントであることにかわりはないのですが、中学受験も初めてなら子育ても初めての私は、どう監理するか────この言葉、いやですよね────どう育てるのか、自分の立つ位置がしっかりしていませんでした。
最後の3つめは、そんなふうにひとりでは受験できない成長過程の子供が、〇か、×か、はっきりとでる中学受験の結果を受けとめなくてはならないこと。親は代わることができないし、大学受験と違ってやり直すことができない1回限りのものだということです。
この3つが絡みあっているから、中学受験は一筋縄ではいかない難しさがあるのだと思います。
これは、誰の問題か?
さて、声をふりしぼって私に向けた、「何と何と何をがまんすればいいのぉーーーーー」という花蓮の、せっぱ詰まった心の叫びになんと答えればいいのか。
適当に機嫌をとったり、その場をごまかしたりはしたくなかった。要領よくやり過ごす器用さももちあわせていなかった。かといって私には、食パンとキャベツを届けたお母さんのような、潔さも、強さもない。花蓮をトイレから引きずり出して、「勉強するのよ。決めたことをやるのよ」と言うパワーはありませんでした。
泣きじゃくる花蓮の声を聞きながら、中学受験の難しさをあらためて感じながら、私は、ゆれていました。
────花蓮は、これが自分の問題だと気づくだろうか。気づいて、本気になるだろうか。
ふたりで手をつないで、二人三脚で走り出した中学受験。最下位の席に代わって座れなかったように、合否も代わってあげられない。だとしたら────。
私は、心を決めました。花蓮を信じて、花蓮を待とうと。
大丈夫。花蓮は気づく。これが自分の問題であることを。そしてどんな結果も受けとめて、精一杯生きていく。親ばかの甘ちゃんかもしれません。でも、あんな叫び声を聞いて、むりやり引っぱることはできなかった。いっぱいいっぱいなら、休もう。そしてゆっくり進めばいい。花蓮の気持ちが本気で前に向かったら、走りだせばいい。そのとき、この手は自然に離れていくだろう。後ろをふりかえることもなく、花蓮は一心に駆けていくだろう。それまでの間、あとほんのすこしの間、私は、花蓮の歩みによりそっていたい。よりそいながら、私なりに進んでいこうと。
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ようこそ!
中学受験を終了されて、いろんな感想を綴ったコメントを送ってくださって、ありがとうございました。
お返事を書きました。
今は、おたよりのページの整理が追いつかない状態ですが、少し時間をかけて、また、「風は、うたう」のページにまとめていこうと思っています。
今日も、来てくださって
ありがとう。
<2012年 中学受験体験記>
ゆのさんへ 輝ママさんへ
さくらさんへ アルゴさんへ
みどりいろさんへ chanchanさんへ
そして最後まであきらめないで
走り抜けたみなさんへ
長い長い間、ほんとうにお疲れさまでした。
親子で走り続けることって、いいときばかりではなくて、むしろ辛いときや、投げ出したくなるときのほうが多い。それが中学受験を終えたときの、私の率直な感想でした。
でも、それを最後までやりとおしたことって、すごいことなんですよ。─── そして走り続けた、おひとりおひとりの日々を思うと、ほんとうによくやってこられたと思います。
決して、結果ではない。後悔しないこと─── それが一番大切だと、私は思っています。だって、それが生きるということじゃないですか。
その大切さを伝えたくて、あえて「全落ち」という言葉を使って、今回の記事は書きました。後悔しない日々の先にこそ、必ず道は開けてくる。たとえ、いま涙を流そうとも、たとえ少し時間がかかったとしても………。 必ず道は開けると、私は信じています。
わが子の居場所が感じられる学校に進学された方も、また合否にとらわれずに、最後までお子さん自身の意志を尊重された方も、みなさんの手のなかには、その結果以上のものが、わが子との間に確かにあると感じていらっしゃるのではないでしょうか。
そして中学受験、道半ばのみなさん、どうか今日一日を大切に。
わが子との一瞬一瞬を大切に、過ごしていってください!
<2012年 中学受験体験記>
さくらさんへ
このブログを読んでくださるみなさんへ
さくらさん、このブログが心の支えだったと言ってくださって、こんなに嬉しいことはありませんでした。
わたしのほうこそ、ありがとう!
去年、中学受験を闘った私自身、正直、辛いことが多かった。
受験ですから、競争ですから、それにママ友をつくるのがあまりうまくない私にとって、試行錯誤の日々でした。
ひどく孤独ななかで感じたり、考えたり、また見つけた方法を、できるだけ多くの中学受験をするお母さん方に知ってほしいと思って綴りました。
ひどくムラのある投稿にもかかわらず、
アクセス解析をみると、深夜でも、早朝でも、どの時間帯も、いつも、何人もの方が必ず読んでくださっているということが、
このブログを書き続ける、私の心の支えでした。
心から感謝しています。ありがとう。
<2012年 中学受験体験記>
コメントのお返事について
お便りのお返事のページが、「あなたに エールをおくる」のなかにあります。
最初、お返事はいつも、トップページに掲載し、そのあと、消してしまわずに、お便りのページに移動します。このブログを読んでくださっている、みなさんに向けたメッセージでもあるので。
タイトルは「風は、うたう」────いつでも、どうぞ、訪ねてみてください。
<2012年 中学受験体験記>
風のように
さわやかに吹く風のようでありたい。
ブログデザインのイメージ「草原の風」は、私のテーマのひとつです。
<2012年 中学受験体験記>
はじめまして。
私も受験の時に同じことがありました。
中受ではなく高校受験ですが。
音楽高校へ受験するということで受験前は毎日ピアノのレッスンがありました。
学校に行って帰ってきてレッスンまでのわずかな時間、練習して。昨日のレッスンでの課題をクリアできないまま、また今日のレッスンに行って、帰ってきてご飯食べて寝て、起きて。また学校に行って、、、、の繰り返し。
この状況がず~っと続いて、全然リセットができないままレッスンがやってくる。上達している実感が全くなし。
今思えば、子どもを産んで朝昼晩の感覚がないままず~~と授乳をしている感じに似てるかも(笑)
ある日、今日はレッスンを何が何でも休んでやる!!と思いたって自分の部屋にこもって寝たふりをしました。
親が起こしにきても、狸寝入り。先生が来ても寝たふりを通す。
とうとう、親もあきらめて、その日はめでたく(?)レッスンに行かずにすみました。
それがあってからは、何となくバツが悪くて真面目にレッスンに通った記憶があります。
それと、自分で休む!って決めたことが現実になったこと。これが嬉しかったな~~。
お嬢さんは、少し休憩すればまた頑張っていくのと思います。
その休憩期間を見守る親の方がツライですけどね。
by なりんこ (2012-08-19 22:58)
こんにちは。興味深く拝見させていただいております。
受験生の母の思いがほかのどの方のブログよりもズンズンと伝わってきて、
毎回一人で目頭を熱くしながら読んでいます(笑)
うちの娘は今4年生ですが、中学受験は親子ともども初めての経験となりますので、とても参考になります。これからも更新楽しみにしております。
by ぷり (2012-08-20 09:15)